関西(京都・大阪・滋賀 等)を中心に自然素材を使用した高断熱・高気密の省エネルギー住宅を設計しています

Q1.0住宅とパッシブハウス

日本の住宅とドイツの住宅
鎌田紀彦(室蘭工業大学特任教授・新住協代表理事)

 
私はこれまでに5~6回ドイツに行ったことがあります。第1次オイルショック後の省エネ住宅からエコハウス、パッシブハウスなどの実験住宅や、実際に居住している住まいも見学しました。最初の頃は、先進国ドイツの状況に感心するばかりでしたが、日本の住宅には日本独自の方法を考える必要があると痛感する部分も多くありました。

ドイツや周辺の国々は基本的にレンガ造の住宅で、厚い外断熱を施工し、モルタルを塗ります。モルタルは塗装を塗り替えるだけ50 ~100年の寿命があり、木製の窓は塗装のメンテナンスを行って長く使う。内装に木材をたくさん使えるのは高級住宅だと聞きました。

その後、エコ意識が国民に普及し、製造段階で大量の熱を使うレンガから、エネルギーが少なく循環できる木造住宅が支持され始めているとも聞きました。その木造のシステムを開発しているのがレンガメーカーだったのでびっくりしつつ、2階の床に日干しレンガを敷き詰め、内壁に土を塗ることに、ドイツ人の住宅観がよく表れていると感じました。

石造りやレンガ造の住宅の持つ大きな熱容量や、住宅内の高い遮音性能を国民が欲しているのだろうと思ったものです。温水の輻射パネルによる全室暖房はもちろん標準装備です。木と紙の家でいろりや火鉢、こたつで寒さをしのぎ、部屋の仕切りは襖という伝統的な日本家屋とはまるで違います。

パッシブハウスの情報も断片的に得ていましたが、北欧やドイツは日本より緯度も高く、冬の太陽高度が低く、天気も悪いと聞いていましたから、太陽熱利用は大変だと思っていました。ヨーロッパでは、南側に大きな窓をつくる習慣はあまりありません。むしろ日射が室内に入ることにより、紫外線で家具や絨毯が傷み、まぶしくなることを嫌うなど、日本人とは感覚がずいぶん違います。

他方、パッシブハウスと称する住宅には結構大きな窓が南に設置してあり、こんな住宅がエコのためとはいえ、受け入れられるのだろうかと思ったものです。

日本の住宅は昔から、南面に大きな掃き出し窓と縁側を持っています。洋室の居間ができた現代でも同じような大きな開口部が設けられます。ヨーロッパで先端的につくられるパッシブソーラー住宅が、形だけは、日本で建てられている。そして、太平洋側の地域は冬の間とても天気が良く、太陽熱が豊富です。ここに日本型のパッシブハウスの向かうべき方向があると考えています。

 
Q1.0住宅の基本的な目的

森みわ さんがご紹介くださったドイツのパッシブハウスが、Q1.0住宅と多くの共通点を持っていることに特に驚きはありません。誰が考えても必然の方向なのです。ただ、、ドイツと日本の住宅観は大きく異なります。3000~4000万戸ある日本の住宅のほとんどが、断熱材が効かず隙間だらけで、冬の暖房環境は劣悪。結果、脳疾患や心臓病で亡くなる高齢者が冬場に急増すると言います。

全室暖房は、月4~5万円も暖房費がかかり贅沢だという考えが支配する中、この状況を改善すべく、私たちは高断熱住宅の普及に取り組んできました。普及率は20年経った今、全国の新築住宅の10%くらいでしょうか。全室暖房が標準のドイツで、パッシブハウスが国を挙げての目標とされている状況をうらやましく思います。

日本は2009年4月、改正省エネ法で、増エネ住宅になる次世代省エネ基準を、強化するどころか緩和してしまったのですから。私たちのQ1.0住宅運動は、高断熱住宅の普及を促進することが第一の目的です。

健康で快適に生きられ、もったいないと思うことなく家全体から寒さをなくし、手入れをすれば100年使える住宅。こうした住宅観を持つためには次世代省エネ住宅では不充分で、Q1.0住宅が必要だと思っています。そのためにも暖房エネルギーを計算して建て主に示すことが必要だと思い、冬の風土的条件を生かす設計手法として、パッシブソーラーの導入が必要と考えたのです。そして、地場で設計・施工する工務店、小さなハウスメーカーや設計事務所の人たちと運動を続けているのです。

 
QPEXという暖房エネルギーの計算プログラム

日本の省エネ基準では熱損失係数という数値で住宅性能を規定しますが、この数値は普通の人にはよくわかりません。数値が小さいほどより高断熱となるのですが、暖房エネルギーがこれに比例するわけではないのです。

同じ熱損失係数の住宅でも、太平洋側と日本海側では大きく異なります。そこで、設計段階で仕様を変えると暖房エネルギーがどう変わるか、即座にわかるQPEXというプログラムをつくりました。大工上がりの工務店の社長でも、少し教わるだけで使えるプログラムです。

でも、計算過程や気象データなどは全く手抜きをしていません。細かな修正を続け、常に改良しています。2010年春には冷房負荷の計算もできるようになる予定です。このプログラムにより、全国800ヵ所ほどの暖房エネルギーがわかります。

 
気候区分ごとの代表的な都市での暖房エネルギー

改正省エネ基準で気候区分が多少変わり、寒さを表す暖房度日数で沖縄を含め8区分、日照条件で3区分になりました。図-1はそれをグラフ化したもので、縦軸に寒さ、横軸に日照を取り、QPEXにある800ほどの地点をプロットしました。

国が決めた日照の3区分「い、ろ、は」は読み取れますが、納得がいかないので、A~Cの区分を私が決めて分けてあります。日本は気象データで見ると、寒さも日照もとても広範囲なことがわかります。ドイツの気象データは見たことがありませんが、日本より狭い範囲に分布するのではないかと思います。

沖縄を除21の気候区分から代表的な16都市を選び、Q1.0住宅の仕様を地域ごとに設定した(1)仕様~(3)仕様のグレードで暖房エネルギーを計算した結果が、図2のグラフです。次世代基準住宅の1/2~1/4の地域ごとに示したQ1.0住宅の目標値に対し、(1)仕様では日本海側の日照の少ない地域が目標値より多いことがわかります。寒さを表すI~Vの地域では断熱仕様を同じにしてありますから、日本海側では少しグレードを上げる必要があるのです。

図2の(2)仕様のグレードと、ドイツのパッシブハウス基準の縦線を比べると、III地域の郡山と IV地域以南の太平洋側の都市が、ほとんど基準をクリアしています。(3)仕様は、工法的に許されるだろう範囲で仕様を上げてみた場合です。

北海道でもパッシブハウスの基準を満たすことができそうです。しかし、日本海側や旭川より寒い地域ではちょっと無理そうです。IV地域は北海道の(1)仕様のグレードの住宅を建てた場合に相当しますが、ほぼ無暖房住宅になっています。その詳細な計算結果はお下図に掲載しました。

45都市あるので、お住まいに近い都市のデータをご覧ください。(1)仕様~(3)仕様のグレードの仕様詳細も書いてあります(画像をクリックすると大きくなります)。


 
年間暖房負荷15KWh/m2という数値

パッシブハウスが、年間暖房負荷15kwh/m2以下にする根拠を聞いたとき、私は脱帽する思いでした。換気システムで供給した新鮮空気を25℃に暖めるだけで暖房が足りてしまう数値なのです。

私たちがQ1.0住宅の基準を、次世代省エネの1/2~1/4という単に切りがいい数値にしたのとは大違いです。しかし、日本でもこの数値で良いかどうかは、これから議論したいところです。

IV地域ではQ1.0住宅の(2)仕様、(3)仕様グレードの住宅はどんな暖房システムを採用すべきか、暖房がいるのか不要かが全くわかりません。熱容量の少ない日本の住宅でも、これを増やすと暖房はほとんどいらなくなりそうです。

何よりこうした仕様の住宅がIV地域に建っている例は極めて少ないので、実際どうかがわかりません。森さんの鎌倉の家、あるいは新住協の岐阜の土塗り壁の家などからいろいろわかってくるのではと期待しています。

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